急成長期のHR Tech企業が直面したのは、「CPLは下がっているのに事業が伸びない」という典型的なBtoBマーケティングの停滞でした。広告効率を追えば追うほど、商談の質は下がっていく。本事例では、計測軸そのものを「商談化率」へとシフトし、SFA連携によってLTV最大化を実現した6ヶ月の取り組みをご紹介します。
クライアント概要
支援対象となったのは、従業員規模500名超のHR Tech企業です。創業から7年、シリーズCを完了した急成長フェーズにあり、ARRも順調に推移していました。マーケティング部門は12名体制、外部パートナーとして広告代理店2社を併用していました。
相談のきっかけは、CMOからの「広告予算は前年比1.5倍に増やしたのに、新規受注の伸びが鈍化している」という危機感でした。
支援開始時の課題
詳細ヒアリングと既存データの棚卸しを通じて、3つの構造的課題が浮き彫りになりました。
課題1:CPLしか追えていない
代理店2社へのレポーティングはすべてCPL(リード獲得単価)ベースでした。「CPLは前年比15%改善している」という事実はあっても、そのリードが実際に商談・受注に至っているかは誰も把握していなかったのです。
課題2:SFAと広告が分断されている
営業はSalesforceで商談を管理していましたが、広告アカウントとは完全に分断されていました。SFAに記録された「失注理由」や「受注プロダクト」のデータが、広告運用に1ミリも反映されていない状況でした。
課題3:プロダクト別の予算配分が均等化している
同社は3つのプロダクトラインを持っていましたが、それぞれの受注後LTVには2.5倍以上の差がありました。にも関わらず、広告予算は3プロダクトに「ほぼ均等」に配分されていました。
実施した3フェーズの再構築
フェーズ1(月1-2):SFA連携と計測軸の刷新
最初の2ヶ月は、徹底的に「測れる体制」を作ることに集中しました。具体的には、SalesforceとGoogle/Meta広告アカウントをオフラインコンバージョン(OCI)で連携し、広告クリック単位で「商談化したか」「受注したか」「受注プロダクトと金額」まで紐付けられる状態を構築しました。
この基盤ができた瞬間から、Looker Studioのレポートには「CPL」だけでなく「商談化CPA」「受注CPA」「プロダクト別ROAS」が並ぶようになりました。代理店2社にも同じKPIで報告するよう運用ルールを変更しています。
フェーズ2(月3-4):予算配分のLTV最適化
測れるようになると、見えていなかった事実が浮かび上がりました。プロダクトAは受注LTVが他の2.5倍にも関わらず、広告予算配分は均等だったのです。
そこで、許容CPAを各プロダクトのLTVと粗利率から逆算し直し、月次で予算配分を再設計しました。プロダクトAの予算は1.8倍、対してプロダクトBの予算は0.6倍に。表面上のCPAは悪化しましたが、「事業利益」では前月比+22%という結果がすぐに現れました。
フェーズ3(月5-6):クリエイティブの質最適化
最後の2ヶ月は、商談化率を上げるクリエイティブの探索に集中しました。SFAデータから「商談化したリードが流入したクリエイティブ」と「失注したリードが流入したクリエイティブ」を比較し、共通する訴求軸を特定しました。
結果、コピーを「機能訴求」から「既存業務との比較で得られる時短効果」へとシフト。CPLは7%上がりましたが、商談化率は14% → 19%へと改善し、結果的に受注CPAは大きく下がりました。
6ヶ月後の成果
| 指標 | 支援開始時 | 6ヶ月後 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 月間MQL数 | 142件 | 395件 | ×2.8 |
| 商談化率 | 14% | 19% | +36% |
| 月間商談数 | 20件 | 75件 | ×3.7 |
| 受注単価(平均) | ¥1,800,000 | ¥2,920,000 | ×1.6 |
| CPL | ¥8,400 | ¥9,000 | +7% |
| 月間貢献利益 | ¥7,200,000 | ¥38,400,000 | ×5.3 |
注目すべきは、CPLは7%悪化しているのに、月間貢献利益は5.3倍に拡大している点です。これは「CPLを下げる」発想から「LTV起点で投資する」発想へとパラダイムを切り替えたからこそ生まれた成果です。
数字以外の変化
定量的な成果以上に大きかったのは、組織の意思決定プロセスが変わったことです。
本事例から得られた示唆
本事例は、「広告改善」という枠組みを超えて、マーケティング組織のオペレーティングモデルそのものを再構築した取り組みでした。鍵となったのは、技術的な施策よりも「測る単位を変える」という意思決定です。
BtoB SaaSにおいて、CPLやCPAを目標にしている限り、リードの質と事業利益は分断されたままです。SFAやCRMのデータを広告運用に統合し、LTVを起点とした投資判断ができる体制こそが、これからのBtoBマーケティングの基盤になります。