「広告は完全に外注、社内に運用できる人がいない」という状態から、6ヶ月で社内チームが完全に自走するまでに至った会計SaaS企業の事例です。本事例では、ゼロから広告チームを立ち上げ、SOPと週次レビューで運用品質を維持しつつCPAも22%改善した取り組みを、フェーズごとに詳細にご紹介します。
クライアント概要
支援対象は、中小企業向けクラウド会計SaaSを提供する企業。創業6年でARRは20億円に到達し、シリーズBの資金調達後にマーケティング機能の強化を計画していました。従業員規模は120名、マーケティング専任は1名のみという体制でした。
相談のきっかけは、CFOからの「広告予算が月800万円規模になり、外注の管理コストが見過ごせない水準になってきた」という声でした。
支援開始時の課題
課題1:社内に運用ノウハウがゼロ
広告運用は完全に外注化されており、社内には「キーワード設定の意図」「入札戦略の判断軸」を理解している人が一人もいない状態でした。月次レポートに記載される改善施策の説明も、「機械学習が安定してきた」「クリエイティブを刷新した」といった抽象的なものに留まっていました。
課題2:意思決定のリードタイムが長い
施策提案から実行まで平均1週間。「来週からシーズン需要のピーク」というタイミングで提案が来ても、間に合わないことが頻発していました。さらに、社内で施策の妥当性を判断できる人がいないため、提案がそのまま採用される構造になっていました。
課題3:広告アカウントの所有権が曖昧
Google Adsアカウント、コンバージョンタグ、レポートテンプレートなどがすべて代理店側で管理されており、「万一契約解除になっても、データの引き継ぎがスムーズにできない」というリスクを抱えていました。
実施した3フェーズの内製化
フェーズ1(月1-2):SOP整備と現状把握
まず2ヶ月で、現在の広告アカウントの構造、入札戦略、クリエイティブ制作フローなど、外注先がブラックボックス化していた業務をすべてドキュメント化しました。Notionに整理した結果、52本のSOP(業務手順書)が完成しました。
ポイントは「マニュアル」ではなく「なぜこの設定にするのか」という意思決定の根拠を含めて記述したことです。これにより、新規メンバーが入社2週間でキャッチアップできる知識資産になりました。
フェーズ2(月3-4):並走運用と技術移転
並行採用していた運用担当者2名をチームに迎え、月3から「並走フェーズ」へ移行しました。具体的には、社内担当者がアカウントの操作を行い、Vegimaxは設計レビューと相談対応に回るという役割分担です。
週1の定例ミーティングで施策のレビューを行い、判断に迷うポイントを言語化していきました。この期間で重視したのは、「答えを出さず、判断軸だけ伝える」という支援姿勢です。失敗を許容することで、自走力が一気に育ちました。
フェーズ3(月5-6):完全独立とアドバイザリ移行
月5以降は、Google Adsアカウント、コンバージョンタグ、Looker Studioのレポートテンプレートなど、データ基盤のすべてを社内に完全移管しました。代理店契約は段階的に解約し、月6には外部代理店ゼロ体制が完成しました。
移行後はVegimaxが月次のアドバイザリーとして関与する形に切り替えました。週次の運用は社内チームが完全に主導し、Vegimaxは月次の戦略レビューと新施策の壁打ち役を担当する体制です。
6ヶ月後の成果
| 指標 | 支援開始時 | 6ヶ月後 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 広告外注費(月額) | ¥1,500,000 | ¥480,000 | −68% |
| 運用工数(社内) | 月8時間 | 月56時間 | +600% |
| 意思決定リードタイム | 平均7日 | 即日〜2日 | −71% |
| CPA | ¥6,800 | ¥5,300 | −22% |
| 月間商談数 | 42件 | 68件 | +62% |
| SOP(業務手順書) | 0本 | 52本 | 資産化完了 |
特に大きな成果は、外注費を月150万円→48万円へと68%削減しながら、CPAは22%改善した点です。「内製化=コスト削減のためにする」という発想ではなく、「意思決定の速度と再現性を上げるため」という目的設計だったからこその結果でした。
数字以外の変化
本事例から得られた示唆
内製化の本質は、「コスト削減」ではなく「組織の意思決定能力を底上げすること」です。外部に依頼すれば手は早く動きますが、判断の根拠が組織に残らないため、長期的には学習が止まってしまいます。
6ヶ月という期間は、SOP整備・並走運用・完全独立の3フェーズを丁寧に踏むのにちょうど良い長さです。短すぎると技術移転が追いつかず、長すぎると意思決定スピードが鈍ります。本事例は、内製化を「組織進化のプロジェクト」として設計することの重要性を示すケースとなりました。