実店舗とECを併売する小売チェーンにとって、最大の難題は「顧客が結局いくらの利益を生んだのか」が見えないことです。本事例では、購買・ポイント・EC・広告のデータがバラバラに分断されていた中規模小売チェーンが、データ統合とLTV計測基盤の構築によってマーケティング投資判断を一新した6ヶ月の取り組みをご紹介します。
クライアント概要
支援対象は、生活雑貨を扱う中規模小売チェーン。実店舗を首都圏中心に40店舗展開し、自社EC・公式アプリ・ポイント会員制度を運営しています。年商は約120億円、会員数は150万人規模です。
ご相談のきっかけは、経営企画部からの「会員データ・購買データ・広告データがバラバラで、本当に儲かっている顧客が誰かわからない」という課題提起でした。
支援開始時の課題
POS(店舗購買)、EC(オンライン購買)、ポイントシステム(会員行動)、広告管理ツール(流入・新規獲得)の4つが、それぞれ別々のシステムで運用されており、同じ顧客のはずなのに紐づいていない状況でした。
「広告で獲得した会員が、最終的に店舗でどれだけ購入したか」「ポイント保有上位層は何を買っているか」など、本来見るべきデータがエクセル手作業でしか出せない状態。レポート作成だけで月60時間が消費されていました。
広告効果はECサイト上の初回購買単価でしか測れていませんでした。店舗での再購買やポイント経由の追加購買が反映されないため、本来高LTVな顧客を獲得していたチャネルが「CPAが高い」という理由で予算を絞られていたのです。
会員ランクは保有ポイントで決まっていましたが、実際の購買頻度や年間貢献額との相関が誰も把握していませんでした。マーケティング施策が「全会員に均等」であり、ハイバリュー顧客への重点投資ができていない状態でした。
実施した3フェーズのDX推進
フェーズ1(月1-2):データ統合基盤の構築
実施した3フェーズのDX推進
フェーズ1(月1-2):データ統合基盤の構築
まず取り組んだのは、4つに分散していたデータの統合です。BigQueryをデータウェアハウスとして採用し、POS・EC・ポイント・広告の4データを共通の会員IDで紐づけられる基盤を構築しました。
この際、最も時間がかかったのは「ID統一」でした。会員IDが各システムで異なる形式だったため、メールアドレス・電話番号・カードIDをキーにマッピングテーブルを作成。最終的に95%超の会員データを統合する仕組みを完成させました。
フェーズ2(月3-4):LTV計測とセグメント設計
統合データを使い、会員ごとのLTVを算出する仕組みを構築しました。「初回購買日」「累計購買額」「最終購買日」「店舗/ECチャネル比率」「ポイント利用率」などの軸で会員を5セグメントに分類しました。
結果として明らかになったのは、全会員のうち上位8%が売上の48%を生み出しているという事実です。この層は店舗とECを併用し、ポイントを賢く使い、年間来店頻度も高い、いわゆる「ロイヤル層」でした。
フェーズ3(月5-6):広告連動と施策の運用化
最終フェーズでは、構築したLTV基盤を広告運用と接続しました。Google・Meta広告にLTVベースのカスタムオーディエンスを連携し、ロイヤル層と類似する潜在顧客に重点配信する設計に切り替えました。
並行して、店舗スタッフ向けには「VIP顧客来店通知」をシステム化。ロイヤル層が来店した際、店舗側で個別接客に切り替えられるようになり、リアルとデジタルの境目を超えた一貫したCX設計が実現しました。
6ヶ月後の成果
| 指標 | 支援開始時 | 6ヶ月後 | 変化 |
|---|---|---|---|
| レポート集計工数(月次) | 60時間 | 33時間 | −45% |
| 会員ID統合率 | N/A | 95%超 | 基盤完成 |
| 広告ROAS(全体) | 186% | 331% | +78% |
| ロイヤル層からの売上比率 | 不明 | 48% | 可視化 |
| 新規会員のLTV予測精度 | N/A | ±15% | 運用可能 |
| マーケ投資ROI(年換算) | 142% | 268% | +89% |
特に大きな成果は、マーケ投資ROIが142% → 268%へとほぼ倍増したことです。これは新規獲得を絞ってロイヤル層育成にシフトしたわけではなく、「どの新規顧客がロイヤル層になりやすいか」が予測できるようになり、投資の精度が劇的に上がったためです。
数字以外の変化
本事例から得られた示唆
小売業のDXは、最新ツールの導入よりも「分散したデータを共通IDで束ねる」ことが本質です。POSとECとポイントが別々のシステムで動いていることは珍しくありませんが、それを放置している限り、本当のLTV最大化は実現できません。
重要なのは、データ統合が「ゴール」ではなく「スタート」であるという認識です。基盤ができた後にどうマーケティング・広告・CRMに反映するか、施策まで含めた一貫設計こそが事業成果に直結します。Vegimaxでは、こうした技術と業務設計の両面でDX推進を支援しています。